第一部では、fundnote新ファンドマネージャー・神谷悠介氏の学生時代から損保営業時代、そして株式投資との出会いを深ぼってきました。
第二部では、趣味として始めた投資を“生業”へと変え、損保ジャパン・グローバル運用部、SOMPOアセットマネジメントで積み重ねた運用者としてのキャリアに迫ります。
そして――
なぜ彼は安定を捨て、fundnoteを新たな挑戦の舞台に選んだのか。
運用者としての軌跡と、fundnoteで描く未来を紐解きます。
「fundnoteであれば、これまで培ってきた経験と膨大なデータを存分に活かしながら、自身の力を惜しむことなく発揮できる…」
─── 本社のグローバル運用部での業務を簡単に教えてください
2005年7月、社内FA制度を活用し本社グローバル運用部へ異動しました。
希望は国内株式でしたが、当時は政策保有株が中心で自由度が低かったため、部長の判断で国内外の社債運用を担当することになりました。
およそ1兆円規模の残高を管理し、国内外の社債の自主運用や海外委託ファンドの管理に従事。証券会社や銀行を通じた発注も行いましたが、主な役割は自社資金や積立保険の資金を対象としたポートフォリオ管理でした。
─── グローバル運用部で1番印象に残っている出来事を教えてください
リーマンショックですね。手前味噌ですが、かなりうまく立ち回れたと思っており鮮明に記憶に残っています。
2008年9月の破綻直前、数十億円規模を保有していたリーマンブラザーズ債(サムライ債)を、2008年6月頃にすべて売却しました。もしそのまま持っていたら、数十億円の損失になっていたはずです。他社が金融庁に数十億円から三桁億円の損失を報告する中、損保ジャパンはゼロで済みました。
リーマンブラザーズの破綻を正確に読んでいた訳ではないのですが、米国サブプライムローンの状況と米国投資銀行の投資状況、クレジットデフォルトスワップ(CDS)などで複雑に入り組んだ金融債権債務関係を踏まえれば、国の関与や助ける金融機関がいなくなれば、連鎖的な金融不安を引き起こし、投資銀行下位のところに再度火の気が上がる可能性はそれなりにあると判断しました。
リーマンの破綻まではある程度事前に対応できたものの。メリルリンチやモルガン・スタンレーにまで不安が広がったときは、正直かなり焦りました。以前の担当者から引き継いだこれらの債券ポジションが合計で三桁億円規模あり、価格は急落。もし状況が改善しなければ大きな損失計上が避けられない局面でした。
そのため、週末の夜にBloombergのチャットなどを使って米欧のセールスやトレーダー、アナリストに状況を必死に確認していました。以前、短期派遣でPIMCOやBlackRockを訪問した際に証券会社を回って築いた人脈が、このとき大いに役立ちました。
最終的にメリルはバンク・オブ・アメリカに救済され、モルガン・スタンレーは三菱UFJからの出資で資本を確保し、危機を逃れることができました。非常に厳しい時期でしたが、市場が危機に直面したときに何が起きるのかを、実体験として学んだ濃密な時間でもありました。

その後、2011年4月に運用会社であるSOMPOアセットマネジメントに出向。2012年4月に株式運用部で日本株式の運用を開始します。まずはアナリストとして、実態を把握している保険会社のカバーを開始し、周辺で証券、その他金融をカバー。次いで住宅、建設、ゲーム、インターネット、ソフトウェア、サービス、総合商社、電力ガスなどを担当。また、ポートフォリオマネージャーとして、直接担当ではないものの、自動車、機械、電機、銀行など他業種についてもランキング上位のセルサイドアナリストとミーティングし知見を広めました。また、先進国株のアナリストも兼任しており、欧米自動車、保険、投資銀行、通信なども見ておりました。
ファンド運用も公的年金向けが主でしたが、2プロダクト、数百億円後半程度の規模のESG系ファンド運用担当者をしておりました。
───運用を生業にする上で徹底されている考え方などはありますか?
まず意識したのは「徹底的に優れた人から真似る」ことです。最初に担当した保険セクターでは、当時ヴェリタスで連続1位だった同世代のトップアナリストに同行しました。1社の取材のために数百ページのパワーポイントを作り、核心を突く質問を繰り出す。その取材姿勢は圧倒的で、今でも強く印象に残っており、取材の最終形として今でも意識し続けています。
もう一つは「逆サイドを常に意識する」ことです。自分が「買い」と思ったときに、売り側の人間はどう考えるか。もし想定と違う動きになったとき、それでも自分のシナリオを支える蓋然性があるのか。確固たる自信を持って意思決定できているかを自問しながら日々銘柄に向き合っています。
───運用者として、ご自身の強みとは?
私の場合、まずは過去データの蓄積と徹底的な分析を土台にしています。企業の業績や株価の属性を時系列で整理し、「このタイプの企業はこういう局面で業績が出やすい」「こういう局面では株価がこう動きやすい」というパターンを地道に積み上げてきました。基本的に歴史は繰り返すと考えていますので、決算が出たときに「これは過去のどの局面に近いのか」を瞬時に判断できる。過去の膨大な蓄積を参照できる点は、自分の差分だと思っています。
次に、使うデータの幅広さです。企業の自社発表にとどまらず、海外の同業他社の業績、主要取引先の月次、貿易統計の品目別・地域別データ、鉱工業生産の業種別データ、生産動態調査の細目など、通常はあまり使われない一次情報まで拾いにいきます。少しでもブレークダウンされたデータがあれば取りにいく姿勢は、人より執念深い方だと思います。
さらに、取材のアプローチにも特徴があると思います。野球に例えると「配球を読む」イメージで、取材前に想定問答を組み立てます。厳しい質問で直球勝負するのか、あえて緩い球で相手を油断させ本音を引き出すのか。そうした工夫で得られる“思わず出てしまった一言”が、レポートや決算書には出ない情報につながります。某証券会社の方から「単独取材件数がバイサイドで最も多い方に入る」と言われたこともあり、そこで得たノウハウは自分の武器になっています。

───大手の安定を捨て、新興のfundnoteに参画を決断した想いの背景を教えてください
大手機関投資家での経験には多くの学びがありました。証券会社からの厚いサポート、数百億・数千億規模の資産を持つ経営者との面談、IR担当者への迅速なアクセス、さらには海外での現地取材など、環境としては非常に恵まれていました。
一方で、多くの大手機関投資家は『チーム運用』を掲げるため、どうしても没個性になりがちです。長期投資を掲げやすい一方で、短期的な変化や独自の発想を運用に反映しにくい。私自身、日々多くの企業を取材し、TOB等のコーポレートアクションや四半期決算での反応をまとめてきました。さらに、ボールの投げ方を研究することで、相手が持っている情報をどう引き出し、関係性を構築できるか、ノウハウを蓄積してきた自負があります。
そういった情報や経験を十分に活かせないもどかしさを感じていました。
fundnoteであれば、これまで培ってきた経験と膨大なデータを存分に活かしながら、短期にも目を配った個性的な運用を実現できる。この自由度こそ、私が求めていた自身の力を惜しむことなく発揮できる環境であり、参画を決めた最大の理由です。
─── 具体的に、fundnoteでどんなことを実現していきたいですか?
まずはとにかく、自身がファンドマネージャーとして運用するファンドで高いリターンを創出することです。それにより、お客様が心から投資したいと思えるようなファンドにしていきたいです。
個性的な運用を行い、ファンドの残高を大きくし、残高が大きいが故に取材で取れる情報の質と量が拡大するといった好循環を作ってまいります。
また、ファンドの中身についてもご投資いただいた方に、丁寧に説明を行い、今までにないお客様との距離が近いファンドマネージャーでありたいです。