コラム

教えて!川合ファンドマネージャー「グロース市場における今後の対応でIPOの何が変わる?」

ファンド

「上場ゴールはカッコわるい」
昨年の12月、SNSを中心に大きな反響を呼んでいた東証から出された「グロース市場における今後の対応」の議論をまとめたレポート。

今回のnoteでは、「グロース市場における今後の対応でIPOの何が変わるのか?」と題し、上場ゴールが起きてしまうメカニズムから解決策まで。実際にIPO株に焦点を当てた投資を行っているfundnoteIPOクロスオーバーファンド(愛称:匠のファンド あけぼの)の運用担当者:川合直也にインタビューをしました。

最後には、「残念なIPOを見分けるポイント」という個人投資家の方が気になる質問まで突っ込んでお話を聞きましたので、ぜひ最後まで目を通していただければ幸いです。

プロフィール詳細

川合の運用する匠のファンド あけぼのはこちら⇩

fundnoteIPOクロスオーバーファンド(愛称:匠のファンド あけぼの)


昨年の12月に東証から「グロース市場における今後の対応」レポートが出されSNSでも反響を呼んでいました。

読まれていない方のために
<簡潔にまとめると>
・上場を目的化せず、持続的成長を重視することが重要。
・IPOは、大きく成長できる確信がある場合に限るべき。
・非上場のExit手段としてM&Aを優先。グロース企業同士のM&A活用。
・上場基準や上場維持基準の引き上げを含め、制度改革を検討。

上記のような議論がまとめられたレポートでした。

レポートの詳細はこちらをお読みください⇩
東京証券取引所 上場部「グロース市場における今後の対応」2024/12/10
https://www.jpx.co.jp/equities/follow-up/nlsgeu000006gevo-att/mklp77000000n54j.pdf


Q1 ファンドマネージャーの視点で、今回のレポートを読んだ率直な感想を教えてください。

川合:レポートの総論的には、誰もがグロース市場が今後より良くなっていって欲しいと思っているのだと感じました。
IPO環境やグロース市場が良くないと、そもそも起業しようと思えないですから。

起業した人が会社を大きく育てるためには、IPOを挟んでさらなる成長をさせていくというステップがあるはずなので、そのIPO環境ないしはグロース市場をしっかりと先に整えておくことが重要だと思っています。

このレポートの方向性でグロース市場の改革を進めてもらえると、僕も中小型株のファンドマネージャーとして、グロース市場で儲けられるようになるのでとてもありがたいです。

―ズバリ今回のレポートはかなり大きな意義があるということですか?

川合:とても意義があります。凄いレポートですよね。
市場関係者や実際の現場の人へのヒアリングも入っていますし、その方々それぞれの意見や理由もロジカルで質が高いです。


Q2 そもそも上場とは何のためにある?

―世間の一部ではさも上場そのものが不幸かのように語られてしまっている節があると思います。改めて、川合さんの考える上場の意味とは何ですか?

川合:上場は会社を大きく育てていくための手段で、例え今は小さくとも、将来的にプライム市場に行けるような500億〜1000億の時価総額を目指す会社のためにあるべきものだと思っています。

現実は非上場での資金調達が簡単に出来てしまい、安易にVCから資金調達をしたことにより「時価総額が小さくても」「上場にあまり意義がなくても」IPOを目指さないといけない会社が多い気がしています。
これが原因で、”上場”に対する世の風潮現状のグロース市場も歪んでしまっているのだと思います。

―VCから調達するとなぜIPOを目指さないといけなくなるのですか?

川合:VCはビジネスモデル的に投資先がIPOをしないと利益が出にくいからです。従って、どうしても投資先の背中を押し続けてしまいます。

起業家側も出資をしてもらっている手前「柔軟にM&Aをします」と言い出すのにはハードルがあるのだと想像できます。


Q3 スモールIPO不幸説??

―これまた世間では、スモールIPOは不幸だという声がしばしば聞こえてきます。レポートでも一部議論されていましたが川合さんはスモールIPOにどんな問題意識を持っていますか?

川合:スモールIPOには、実はあまり問題意識を持っていません。時価総額が小さい段階で上場しても良いと思っています。資金調達が必要で、大きく会社を育てていきたいのであれば、上場が選択肢に入るのは当たり前です。僕も「たとえ上場した段階で時価総額が小さかった」としても、”良い会社”であれば投資します。むしろ、良い会社に早く投資できることはありがたいので、スモールIPO自体は残ってほしいと思っています。

―ではスモールIPOが一概に不幸で悪いという訳ではなく、その後の成長が無く停滞してしまうことが問題だということですか?

川合:そうですね。上場して終わりのような会社であれば、IPOはオススメできません。IPOから5年以内の銘柄に焦点を当ててファンド運用をしている僕ですら見ないような会社であれば、上場をしない選択肢が良いのだろうなと思います。

ただ、小さいからといって上場の門を閉ざしてほくはないなと思っています。少しでも間口が空いている状態は維持してほしいなと。

―となると、上場基準というよりも上場”維持”基準の方が整備されると良い環境になっていきそうですね!

川合:まさにその通りです。今は維持基準が緩いですよね。
流石に10年は長いなと思います。言い換えれば、10年間停滞を続けることもできると言う訳なので、期間は5年間にして維持基準も高めても良いと思います。上場時の時価総額ではなく、上場後の成長を重視する意味で、上場基準よりも上場維持基準の方が大事だと思っています。

上場維持基準 <時価総額>
「40億円以上(上場10年経過後から適用)」


Q4 上場ゴール、初値天井はなぜ起こるのか

川合:上場ゴールや初値天井には、会社側にも原因があると思っています。
とにかく自社の上場をかっこよく見せたいがために「初値を高くしたい」「公募額を高くしたい」との意思が表れてしまっています。

上場で得た資金で会社をより大きく成長させていくのであれば問題ないですが、実際問題そうではない会社が多いです。従って、上場に向けてその期の決算を見栄えが良いように作りにいく行為をする会社が多く、上場ゴールや初値天井が起きてしまっているのだと考えています。


Q5 残念なIPOを防ぐためには?

川合:「上場ゴールはカッコよくない」という起業家側の意識改革も効果があると思いますが、やはりVC側もIPOとは別のExit方法を持つ必要があるのだと思います。徐々に出口は増えてきている気もしますが、この流れを推し進めていき、上場するメリットがあまりないのにも関わらず上場をしてしまう会社をなくす方向にもっていかなければいけないです。

解決策としてクロスオーバー投資家の存在や非上場のセカンダリーマーケットも出口になり得ますね。VCとしてはIRRを高めたいために、短期で高く売りたいというインセンティブが働きます。クロスオーバー投資家に対してや非上場のセカンダリーマーケットでそれなりの値段で売却することができる制度が整えば、VC側のインセンティブを維持した状態で世のIPO環境をより良く変革することができると思っています。

―一方で良い会社であっても上場後株価が停滞してしまう場合もありますよね。所謂、上場後の「死の谷問題」についてはどうお考えですか?

川合:「fundnoteIPOクロスオーバーファンド」(愛称:匠のファンド あけぼの)の運用者である僕が言うのは少々ポジショントークにもなりますが、クロスオーバー投資家が上場手前でVCから引き継いだり、さらに追加の成長資金を入れたりなどすることによって解決の一手を担うことができると思います。

大きく2つの側面からそう思っていまして、
1つ目は、クロスオーバー投資家がVCから投資先の株式を引き受けることによって、VCがIPO時にExitしなければならないという意識を減らせます。同時に売り圧力を減らすことができます。これはオーバーハングの払拭にも繋がります。
2つ目は、fundnoteIPOクロスオーバーファンドからの投資の場合、投資した段階から中長期・上場後を見据えた経営戦略立案ができます。具体的に言うと、「上場したらこんなことがしてみたい」「上場の年にこういう業績を出す必要がある」といった誤った意識を排除して、2〜3年後にプライム市場に移行するためにはどうするべきかという中長期的な視点で戦略の策を講じることができるようになります。

これら2つの理由から、クロスオーバー投資家ないしは、fundnoteIPOクロスオーバーファンドは上場後大きく成長していくIPOを支援できると思っています。
上場はあくまで手段であり、通過点です。


Q6 M&Aの活発化がもたらすグロース市場改革は期待できる?

―レポートではかなりM&Aが前面に出されていたかなと思います。率直な疑問ですがそんなに「M&A」の活発化は万能薬として効能があるのでしょうか?

川合:非上場段階でのM&Aもグロース企業同士のM&Aもどちらも良い気がしますね。VCとしてもM&Aで早期にエグジットできるのは、リターンは少なくなるかもしれませんがIRRを高める意味では選択肢として良いと思います。
また、売り手の会社にとっても、無理にIPOを強いられるよりかはM&Aをした方が良いという可能性はありますよね。

ただ、上場を目指していた従業員にとって良いかどうか微妙なところかもしれません。しょうがない部分もありますが、ストックオプションは無効になってしまいますから。

―グロース市場に上場している会社を子会社化するM&Aについてはいかがですか?

川合:今後、件数は増えていきそうですよね。上場株は非上場の同じ規模の会社に比べてバリュエーションが半値ぐらいの場合もありますから、買いたい会社は多いと思います。なので、「グロース企業同士のロールアップM&A」や「新規事業に乗り出すために小型株を子会社化していくコングロマリットM&A」などはとても良い手法だと思っています。


Q7 結局、東証のグロース市場における今後の対応で
IPOの”何”が変わる?

川合:先ほど述べた「上場ゴールはカッコよくない」を言い換えると、その反対は「プライム市場にいく大きな会社をつくっていこう」を意味すると思っていまして、グロース市場改革が進めばそういった意識の高い会社がIPOの中心になっていきます。
これは、上場IPO株の平均リターンが良くなり、グロース指数にとってポジティブなのはもちろんのこと、上場そのものが良くないことのように捉えられてしまっている一部の世の風潮も変わると思います。
さらに、社会の新陳代謝が生まれますね。新しくでてきた小さな会社が大企業からシェアを奪って成長し、一定のサイズを持つようになることによって、社会をより効率化していくということが起きます。


Q8 残念なIPOを見分ける、個人投資家必見のポイントとは?

川合:最近よく言っているのは「嘘つきはだめ」です。人としてはもちろんのことですけど(笑)

―嘘というのはどの部分でですか?

川合:「会社の今ある姿」に対する嘘です。
会社の「競争力」や「戦略」、「強み」に対して嘘をついている会社は、やはりIPO前後を見栄え良く見せて株価を高め、高値でのエグジットを狙っている会社であると言えると思っています。なので、本当に会社のことを理解して、正しい発信をしてるかどうかを見極めます。

手法を具体的に言うと、IPO直後でも良いですし、その後1年ぐらい業績を見続けても良いので、公言していたことが本当に実現されているかどうかをトラックしています。そうすると意外にも誤魔化す会社が多いです。例えば、「業績が伸びました!」と言った、次の四半期に「実はこれ一過性のものでした…」など言い始めるケースなどがあります。そういうことが一度でもあった会社は、そういう性質の会社であると思って手を引くべきです。

一方で目標を目標として語っている部分については嘘だとは捉えていません。結果として目標に到達できないケースも中にはあると思います。
ただし、その目標に向かって本当に尽力しているかが重要になります。感覚値ですが7割ぐらいは風呂敷だけを広げていて、しっかり取り組めてはいないように思えます。その7割の会社と、本当に頑張っている3割の会社には大きな差があり、見抜くことができると思っています。


川合の運用する匠のファンド あけぼのはこちら⇩

fundnoteIPOクロスオーバーファンド(愛称:匠のファンド あけぼの)


会社概要

会社名:     fundnote株式会社
設立:      2021年8月
代表取締役社長: 渡辺克真
資本金:     140百万円
事業内容:    ・投資運用業・第二種金融商品取引業
         ・適格機関投資家等特例業務
         ・関東財務局(金商)第3413号
         ・一般社団法人 投資信託協会 加入
金商法に基づく表示等はこちらhttps://www.fundnote.co.jp/risk/

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